取出涼子 医療ソーシャルワーカーdiary

取出涼子です。私が先輩や先達から、そして部下や後輩から教わってきたソーシャルワークに関することを発信します。

2020.11.1 奥川幸子さんから学んだ、8つの枠組みと、8-2「専門職としての援助業務遂行のための組み立てと実行」について

このブログを書きたいと思った理由のひとつに、私の恵まれたソーシャルワーカー人生に登場してくださったたくさんの先達の皆さんからの教え、があります。

いろいろな限界のある自分がここまでソーシャルワーカーとしてやってこられたのは、その恵まれた環境に拠っています。教えていただいたことを伝承していくことは私の役割でもあると思い、特に奥川幸子さんには、知識の一部を伝承していくこと、をお許しいただいた、と思っておりまして、ブログにも記載していきたい、と思っています。

奥川幸子さんは、医療ソーシャルワーカーで病院を退職後は対人援助トレーナーとして日本の対人援助職の質の底上げをされた方です。ソーシャルワーカーのみならず、人を援助する仕事をしている職業の「対人援助」の部分は共通している、として奥川理論(と私は勝手に呼んでいます)につくりあげ、対人援助の実践を、ご自分の考えた枠組みで説明し、その伝承をされてきました。奥川幸子さんのスーパービジョンは圧巻で、今何がその問題状況に置かれたクライエントに起きているのか、対人援助職はその人とその問題状況にどう対応していくのか、についてみごとな「絵解き(クライエント理解とか状況把握・・・などの全体像の理解)」をされました。

奥川理論にはいくつか「図」がでてくるのですが、「図2」では、対人援助職が必要とする8つの枠組み、を表しています。そのうち、8つめの枠組みに、8-2「専門職としての援助業務遂行のための組み立てと実行」があります。

これは、いろいろ深い意味があるのだと思いますが、私自身は、自分の専門領域について十分理解し、専門性が発揮できるように場を整えること、と理解しています。

8-2、を考えるとき、いつも二つの事例を思い出します。

ひとつは、2年目のソーシャルワーカー。あるとき、担当患者さまの奥様から、「折り入って相談したいことがあるので時間をとってほしい」とメールをもらいました。日常的にお会いしているのに、わざわざ、普段活用していなメールを使っての折り入ってのメール。私だったら(私は若いころ、怖いもの知らず・自信家のところがあったので)こんなメールが来たら、「よろこんで!」と思うところですが、その2年目のソーシャルワーカーは、「どうしたらいいでしょう・・・・」と相談に来ました。

 

もう一つは、4年目のソーシャルワーカー。入院直後の患者さまの奥様とインテーク面接をしていたら、「本当は発病する直前に、離婚をするつもりだったんです。どうしたらいいのでしょう」と告白されました。どうしたらいいのか・・・ソーシャルワーカー自身もそう思い、どうしたらいいのでしょう?とカンファレンスで相談し、その後、退院先は施設かとか、キーパーソンは誰になるのかとか、様々な課題に頭から突入しつつ、混乱しながら援助を継続していきました・・・

ソーシャルワーカーとして、経験を積んでいけばこのような課題に直面しても、まずは落ち着いて対処をしていかれるようになるわけですが、そのソーシャルワーク的整え方、は、8-2の理解の熟成、だと思います。「自分は」「この病院で」「ソーシャルワーカーとして相談援助をする担当者として」「誰に対して」「何をするのか」。これが場のポジションイングであり、ソーシャルワーカーの土台となるでしょう。

一つ目の事例について。

上司の私は、「なぜ『どうしよう!!?』とおもったのか?」(=ソーシャルワーカーの感情)を尋ねました。すると、そのソーシャルワーカーは、怖い、と感じてしまったそうです。折り入って・・・きっと非常に込み入った相談なのだろう。話を聴いてしまってからもし自分では解決できないことだったらどうしよう、対応するのが怖い、と思った、という返事だったわけです。

私は、あなたはそのクライエントの担当ソーシャルワーカーであるので、折り入って相談がある、というときは、喜んでまず話を聴いてください、と伝えました。それがソーシャルワーカーの業務だからです。その上で、よくよく話を聴いて、万一自分では解決できないことだったら、①所属病院のソーシャルワーカーの業務範囲を超える課題であれば、どこに相談したらいいかを紹介(referal)します、②あなたのソーシャルワーカーとしての力量で対応できない問題であれば、上司である私を含め、病院のソーシャルワーカー部門すべての叡知(!?)を最大集結して部門として対応するし、それでも無理であれば私が責任をとるので、しっかり話を聴いてほしい、と伝えました。

ソーシャルワーカー目線ではなく、クライエント目線で話を聴いてほしいと思います。それがポジショニングの一番の原則だと思っています。

二つ目の事例について

患者さまが発病する直前までは離婚を考えていた奥さまがいま「どうしたらいいのか」と戸惑い、混乱されている状態です。ソーシャルワーカーもどうしよう、と戸惑います。なぜソーシャルワーカーはとまどうのでしょうか?たとえば、「まずい、これから誰をキーパーソンにすればいいんだろう」とか「それじゃあ退院援助が難航しそうだな、ドクターや看護師長に突っつかれそうで重荷だ…」とか「離婚しないでください、なんて言えないし、どうしたらいいか私もわからないよ~」だったり。

どう思ってもOKですが、それはそのソーシャルワーカーの困りごとですので、しっかりと困った自分を自覚した上でいったんわきに置いてほしい。

退院援助が難航しようがドクターの説明を聴く人がいなくなろうが、ともかく目の前にいるクライエントが戸惑い、困っています。主訴は「もともと離婚を考えていた。でも夫が発病してしまった。どうしたらいいのか」です。主訴の裏にある事情をもっともっと良く聴いてみてほしいと思います。できれば、現在→過去→未来の順番で。

この「どうしたらいいですか」という問い、を解決するのはこのクライエント自身、それを支援するのがSWであること思い出します。これがポジショニングです。

  例えばこんなふうに切り出してみながら、もっと良く事情を話してもらうとどうでしょうか。「そうだったのですか。それでも今回は、ここまでキーパーソンとして動いてくださったのですね。でも今後はどうしたらいいかわからないのですね。もう少し事情をお伺いできますか?」・・・そうしたらきっと、話の中で、なぜ離婚を考えたのか、なぜ病院から連絡がきたとき動いてくださったのか、どうしたらいいか、という言葉の裏にあるいくつかの選択肢、どの選択肢も妻からするとすっきりしない、という気持ち、などを話してくださるでしょう。話しながら妻自身の気持ちや状況の整理が進むでしょう。その上で、とっても大変ですが。どうするかは奥様が決めていくことになります。もし、病院がどうしても奥様に果たしていただきたい役割があるならソーシャルワーカーが率直に、中立的に、その役割期待を伝えることもあっていいでしょう。役割期待を中立的に伝えてみたら、妻自身が、自分で、できること、できないことを考えてくださることにもつながる場合があります。結果的に病院が助かるような役割をできる範囲で果たしてくださる可能性もあったりします。ソーシャルワーカーが先に困ってしまうと、妻自身の解決能力が引き出されず、さまざまな可能性も逃げて行ってしまうかもしれません。

私自身が経験した事例をひとつ思い出します。

「実は、自分のではない保険証を使って受診してしまいました」という相談を受けたことがあります。そうしたら思いのほか病状が悪く、入院、手術などをすることになってしまいました。私は自分のではない保険証をつかって治療を受けている人に対して、どうお手伝いをしたらいいか、経験がありませんでした。でも、そのクライエントは、すでに友人の保険証を借りて病院に受診してしまったのです。まずしっかり話を聴くしかありません。いろいろな事情がありましたが、一番その時に重要だったのは、大きな病気の病名の告知を受け、さすがにこのままではまずい、とおもって、悩んだ末に、真実を話して再スタートを切ろう、と決意するまでのその人の苦悩と、よくぞ相談室の扉をたたいてくれましたね、ということです。私は自分ではどうしたらよいかわからなかったので、医療事務の課長という請求に関する病院内の専門家=責任者、に相談する了解を得て、2回目の面接を組みました。

真実からスタートするしかない、と思いました。自分の住所地で新しい保険証を作り、あたりまえの状況に戻して治療にはいっていただくしかないのです。

初診日にさかのぼって保険証が作成できたかどうか、病院が未納をかかえたかどうか、その方が未納の医療費を分割払いにするお手伝いをしたかどうか・・・・今はもう記憶が定かではありまん。でも、今からは、自分の保険証です。うそを抱えていくつらさより、経済的な負担と恥ずかしい思いを公表することを選択したそのクライエントに、よくぞ自己決定しましたね、という尊敬に似た思いを感じたことを覚えています。非審判的態度、受容、個別性・・・ソーシャルワーカークライエント関係を結びました。そのあと、問題を解決していくのはクライエント自身です。

こんなことを書いても、実際の現場はきれいごとではすまないこと、わかっていつつ、それでも、ソーシャルワーカーがクライエントの問題を奮闘して解決するのではなく、日本中の叡知でクライエントが問題を解決することを支えていく、という気持ちで、まず話を聴くことから始められると何かが開けるのではないか、と思います。

<span style="font-size: 80%">※ブログに登場する個人の状況や場面は、実名を使わせていただいた方以外は複数の状況を組み合わせたもので、どなたかを特定するものではありません。ご了承ください。</span>