取出涼子 医療ソーシャルワーカーdiary

取出涼子です。私が先輩や先達から、そして部下や後輩から教わってきたソーシャルワークに関することを発信します。

2021.2.14 大事な情報収集:基本情報

   家族構成や家族の年齢、家族が働いているかどうか、どのような仕事についているのか、同居人は誰か、など、基本情報と呼ばれているものを聴くことは意外に苦手なソーシャルワーカーもいるのではないかと思います。私も苦手でした。相手の個人情報を根掘り葉掘り聞いているような居心地悪さを感じるからなのでしょうか。

 私たちが基本情報を聞くのは、それを聞かないとソーシャルワークアセスメントができないからです。それが伝わっていないと「なんでそんなことまで聞くんだ」と思うクライエントが発生します。だから、この情報はなんのために聞くのか理由を説明できるようにしておこう、ということは昔から言われていました。また、ベテランソーシャルワーカーは問題解決に必要な「最小限の情報」で「最大のアセスメント」をする、と聞いたこともあります。

ポイントは「根掘り葉掘り聞かない」ことなのだろうと思います。それではどうすれば「根掘り葉掘り」ではない聴き方ができるのでしょうか。基本情報は、基本のキなのに、実に難しいですね。

ケアマネジャーのアセスメントや、回復期・慢性期病棟の入院時アセスメント面接で、一定の枠組みで情報を聞くことが業務として決められている場合、つい、根掘り葉掘りになってしまい、難しさを感じることが多いかなと思います。

では、いつものように、クライエントの立場になって、目の前のソーシャルワーカーが聞きにくそうに、たどたどしく、遠回しに探ってくるような質問をしてくる状態を想像してみましょう。そうすると私には、むしろプロフェッショナルとして堂々と「必要な情報として皆さんにお伺いしています」と伝えてしっかりと項目を聞いた方がご家族も探られている感じを受けず、話しやすいのではないか、と感じられてなりません。家族は、話さなければならないのなら話すけど、どこまで話していいのか、目の前のソーシャルワーカーはどこまでの話を聞く必要がある、と思っているのか、ほとんどの場合が初めての体験でわからないのだと思います。あなたの場合はどう感じますか?

ちなみに、私は自分の家族のケアマネジャーなどに、職業を聞かれているような聞かれていないような遠回しな質問をされることがあります。私自身は別にソーシャルワーカーをしていることを隠したいわけでもなく、でもきちんと聞かれていないならわざわざ話さなくてもいいかな?と娘・嫁の立場では感じます。なので私側は今その必要が無いし、ケアマネジャーに気を使わせるかもしれないと思ったり、気を遣えと言っているような気になったりして、ここは「生のままの自分」*註の気持ちを優先し、とりあえず職業を伝えることは遠慮しています(笑)。

担当のケアマネジャーは、いろいろな理由で私の職業を聞きたいはずだろうと思います。お休みがいつなのか、とか、どの程度忙しい仕事なのか、とか、どの地域で働いていてどれくらい急変時に対応できるのか、とか、どの程度介護保険について知識があるのか、とか、介護に対する価値観とか・・・・。私は、職業を聞かれることについてはノンボランタリー(中立的。積極的に話したいわけではなく、かといって話すことに拒否的でもない)です。質問されたら話すでしょう。でも、聞きにくそうに探るように聞かれると、重大な秘密を伝えるみたいな気持ちになりそうです。すっきりと、「ご家族のご職業を、お伺いしていいですか?」となどといっていただければ、私の場合は、ですが、そうか、と思ってすんなりと話すと思います。さらにそのあと、「いざという時にどの程度お忙しいのかとか、介護保険などにどの程度詳しいのか、などがわかると相談に乗りやすいのでお伺いできてよかったです」「ところで、どの程度お忙しいのですか?」など、職業を伝えたことが必要で、役に立つことだったことがわかる会話が続くと、なおさら、伝えてよかった、と思うと思います。私は家族のケアマネジャーを信頼していますので、おそらく、職業のことを聴いてもらいその前提で付き合ったほうが相談援助関係は深まるとは思います。まあ、今はケアマネジャーもそこまで必要ではないのでしょう。

しっかりと質問してもらってしまったほうが答えやすい場合もある。もちろん、踏み込まれたくない人もいる。話したくない、と言われたときに、びっくりしないように心の準備(予備的共感)をしておけばいいのだと思います。

そしてもし、明らかに相手が話したくないらしいことをアセスメントのために聴く必要が高まったら、そのときは姿勢を正し、こういうふうに相談にのっていきたい、そのためにあなたのこのことを質問させてほしい、ということを、その面接の状況に合わせてしっかりと伝えることになるでしょう。

基本情報は、援助関係の序盤に聞きそびれると、後から聴くことのハードルが上がることがあります。できるだけ恥ずかしがらずおもねらず、基本情報だと確信しているものはインテーク面接で聴くトレーニング、拒否されたときに落ち着いて対応するトレーニングをするのがプロフェッショナルかな、と思います。

*註 奥川幸子氏の対人援助の構図(図1 「身体知と言語」より)では、ソーシャルワーカーには「生のままの私」と「職業的な私」が同居しており、クライエントからの働きかけを、「生のままの自分」ではなく「職業的な私」の知的・分析的・援助的身体フィルターを通して適切な方法でクライエントに働きかける、としています。どんなにベテランのソーシャルワーカーでも家族のことではひとりの人間。家族のケアマネジャーには、思う存分・安心して「生のままの自分」で対応させていただいています。私よりもはるかに若いケアマネジャーに泣き言を聞いてもらったり、慰められたリしています。本当に感謝しています。