取出涼子 医療ソーシャルワーカーdiary

取出涼子です。私が先輩や先達から、そして部下や後輩から教わってきたソーシャルワークに関することを発信します。

情報収集について

クライエントと出会って、具体的にアセスメント面接に入り、いろいろな情報収集をする段階について考えていることを書きたいと思います。

 まず、情報収集は目的ではなくアセスメントするための手段であること。

新人の頃は、ソーシャルワーカーとしてクライエントにもチームメンバーにも認識していただくことが難しいので、とっても苦労し、その場にいるだけでも緊張していると思います。だから、セットになった質問をひとつずつ聞いていく、というやり方はトレーニングとしては有効だと私は思っています。むしろなにも手元資料がなくクライエントに会うことは、素振りをしていないテニスプレーヤーのように、失敗が前提となってしまうと思います。

 急性期病院ソーシャルワーカーは、たとえば経済的な問題の相談で依頼したいとか、転院援助を依頼したいとか、具体的な「依頼」からスタートすることが多いので、どちらかといえば援助プロセスがわかりやすく、情報収集もその「依頼」の周辺から始めていけばいいので、組み立てはしやすいように思います。

 たとえば、「医療費が心配と言っている」という依頼が病棟ドクター・看護師から来たとします。

 私のお勧めは、この段階での「予備的共感」の実践です。

病院では、この依頼内容とともに、カルテを事前に読むことが可能です。

性別、年齢、病名、病歴、予定入院か緊急入院か、治療方針、ドクター説明の内容、どのスタッフがどうやってここの依頼が必要と判断したのか、家族歴、など、基本的な情報はカルテから入手し、想像してみます。相談に来る立場の人の気持ちになって、入院前どんな生活をしていて(ここはわからないことが多いがいろいろ物語のように想像してみるとよい)、入院してからこの説明を聞いてとき、どう感じた可能性があるかな?依頼内容以外にどんな気持ちで、どんなことを不安に思っている可能性があるかな?今後のことはどう思っている可能性があるのかな?家族同士で相談はしているのかな?などなど、ストーリーで、いろいろなバリエーションの可能性で漂ってみます。そして、そうだとすれば知りたいことについて質問リストを作成してみます。

私は、バイオ・サイコ・ソーシャルモデルを、現在・過去・未来のマトリックスで質問を考えることを推奨していますので、今度はその質問を、現在のバイオ、現在のソーシャル、現在のサイコ、そこから過去のバイオ、ソーシャル、サイコ、そして未来のソーシャル、サイコ、といった感じで並べなおしてみて、その質問があちこちに飛んでいないか、逆に、自分が知りたいことが網羅されているか、を確認します。

特に新人のうちは、ここでスーパービジョンを受けて、業務上必要な質問、ベテランだったらこの段階で想定できる領域の質問例などを聞いておくと、さらにいいかもしれません。

そのリストはお守りとして見えやすく書き直し、アセスメント面接では持っていくようにします。緊張しきった面接で、どうしたらいいかわからなくなったら、そのリストを見ながら質問していきます。

何故私がバイオからスタートするか、ですが、それは、「医療」の場のソーシャルワーカーだから、です。患者さん・ご家族は治療目的で入院しています。それなのに突然社会的な領域の質問をするとびっくりしてしまうかも知れません。もちろん、相談内容や相手によっては違う順番となると思うので、あくまでも原則、です。原則、ということは、応用、があるわけで、応用が難しいわけですが、失敗を含め積み重ねていくと、その応用が効く体になっていくと思います。

 

情報収集では言語的なことだけではなく、非言語もとても大切です。

私が非言語の情報収集について教わったひとつのエピソードがあります。

ある失明した方が一人暮らしをしていて要支援状態となり、家族が心配してサービスの利用を検討してほしいとの依頼があり家庭訪問をした地域の援助者のお話です。

その援助者は、訪問し、サービスの説明をし、本人が十分サービスについて理解をしたのに、後からサービスを断ってきた、家族はとても心配してサービスを何とか入れてほしいと思う、でも本人は受け入れない、自分の面接の何かが悪かったのではないか、と悩んでいました。

事例を紐解いていくと、

援助者が家族からの依頼を受けて一人暮らしのその方に電話を入れた時、とても気持ちよく家庭訪問を受け入れてくれたので、全く問題を感じずに家庭訪問。当日は家族も同席するとのことで、仲の良い家族だ、とも感じたとのことでした。

この事例のスーパーバイザーが訪問時の状況を質問すると、家の様子、ご本人の様子をとてもよく観察し、一語一句おっしゃったことを復元でき、その情報収集能力は100点だった、ということでした。

具体的には、

呼び鈴をおして迎えてくれたのは誰だったか→玄関の呼び鈴を押すと、かなり間があって、玄関を開けたのはご本人だったそうです。

家の様子はどうだったか→お部屋はきれいに整っていたそうです。

その他→居間に通され、ご本人が入れてくれたお茶を飲んだそうです。とてもおいしく入っていたそうです。

もう少しいろいろあったと思いますが、ようは、これらの情報を観察、という形で収集はできていた、ということです。言葉のやり取り以外の、こういった観察で入手できる非言語の情報。それをどうアセスメントするか、奥川理論で言うところの基本情報から、この失明したご本人の個別性に合わせた奥行情報をどう入手するか、が、スーパービジョンにおけるこの援助者の課題、となりました。

別の事例であれば、玄関を誰が開けたかは、もしかしたらあまり重要な情報ではないかもしれませんが、失明したこの方の場合は重要な情報となります。この方は、時間はかかっても、家族がその場にいても、自宅の扉は自分で開けて、客を招き入れるのです。この時だけでしょうか?いつもでしょうか?いつもだとしたらそれはどういう意味を持つでしょうか?

お茶も自分で、おいしく入れるのです。失明された方がお茶を入れるノウハウがあります。自宅もきれいにかたずいていました。失明している方がお部屋をきれいに保つこともノウハウがあります。この方はそういうノウハウをきちんとトレーニングされ、身に着けていらっしゃる方だ、ということが想像できます。いつ、どのようにトレーニングを受けたのでしょう。いまも生活をそのノウハウを活かして継続しているのではないでしょうか。

それらの情報を(もう少しあったと思いますが)組み合わせていくと、ご本人は全身全霊で、「私は今の生活を自分でマネジメントできています」というメッセージを送ってきていた、ということがわかったのです。

しかし、とても礼儀正しいかたでした。せっかく仲の良い家族が自分のことを心配してくれて、また、援助者が家庭まで来てくれて、丁寧にサービスの説明をしてくれたのです。そのことに感謝し、その場ではとりあえず話を丁寧に聞いたのです。でもだからといって、自分の生活を変えることをこのタイミングで受け入れるかどうか、は明言されていなかったのです。

そして、そのあとよく考え、サービスを断ったのです。ここまでをスーパーバイザーが紐解き、ご本人の気持ちが手に取るようにわかるだけの情報を入手出来ていたから、スーパーバイザーは「情報は収集できている、100点」、といったのです。この援助者の課題はその次のステップ、情報と情報を組み合わせて、アセスメントする、というときに、情報の持つ意味、奥行き、についてでした。

つまり、ご本人がサービスを断った、というのもあくまで「主訴」もしくはフェルトニーズです。フェルトニーズとノーマティブニーズは違います。むしろここからがアセスメントの本番の始まり、ともいえます。

※ブログに登場する個人の状況や場面は、実名を使わせていただいた方以外は複数の状況を組み合わせたもので、どなたかを特定するものではありません。ご了承ください。