取出涼子 医療ソーシャルワーカーdiary

取出涼子です。私が先輩や先達から、そして部下や後輩から教わってきたソーシャルワークに関することを発信します。

2020.11.1 奥川幸子さんから学んだ、8つの枠組みと、8-2「専門職としての援助業務遂行のための組み立てと実行」について その2

専門職としての援助業務遂行のための組み立てと実行、を考える際、病院に勤めるソーシャルワーカーだった場合、専門職としてソーシャルワーカーが病院に存在する意味を明確にし、存在を育み、広がりを持たせ、かつ、際立たせることと、いざというときにはその原点に戻って、「私はここで誰に対して何をする人か」を考えることが、クライエントにとってもソーシャルワーカー自身の成熟にとっても大切だと思います。

 

スーパービジョンでは、多くのソーシャルワーカーが、クライエントとの信頼関係が構築しきれていなかった事例を検討してほしい、と取り上げます。なぜならソーシャルワーカー自身の居心地が悪いのです。もちろんクライエントも居心地悪いと思います。ぎくしゃくしています。

 

あえて、信頼関係、ではなく、専門的相談援助関係、と呼びますが、ソーシャルワーカーとクライエントの専門的援助関係の構築は、ソーシャルワーカーが半歩リードして構築するものだ、と思います。クライエントは人生の中で初めてソーシャルワーカーと会うことになった可能性が高い中、初めからソーシャルワーカーが何をしてくれる人か、を理解しているクライエントはほぼいない、と思います。ソーシャルワーカーに対して礼儀正しい方はいらっしゃいますが、礼儀正しくソーシャルワーカーの声掛けや面接に丁寧に真摯に感じよく対応しているクライエントがソーシャルワーカーを相談援助職として理解してくだっているわけではない、と思います。礼儀正しさと専門的援助関係は違うのだろうと思います。

 

ある事例のスーパービジョンを経験しました。スーパービジョンへの事例の提出理由は、援助途中から援助関係が悪化したがどうして悪化したのかを分析したい、というものでした。提出者のSWは、援助関係の悪化の原因は、SWが思っているSWの役割と、クライエントが期待している役割にずれだったのではないか、と考察をされていました。

事例の一部だけ紹介してみます。  

大変難しい状態に置かれている事例でした。お若くして病気となった女性とそのご主人。女性は感情の起伏が激しく、時には死にたくなってしまったり、治療に取り組めなかったりしていました。そんな妻を見ている夫は、なんとか妻が少しでも気持ちよく、平穏な気持ちで過ごせるよう、妻にかかわるスタッフを厳しい目で見ていました(とSWは感じていた)。スタッフの一部は、そんな夫のスタッフへの要求には対応しきれない、と思っている様子もあったようでした。

夫は、ソーシャルワーカーに週1回程度の定期的な面接をしてほしいと要望されました。しかし、経過をたどり、夫とスタッフの間、夫と病院の間、夫とソーシャルワーカーの間にも溝ができていき、夫は周囲の人にソーシャルワーカーに相談してもらちが明かないと言い、ソーシャルワーカーもその溝に気がつきつつ、修正ができないところまできてしまった、と感じていました。

発病前の女性がどんな性格の方だったかはわからない報告でしたが、この病気でご夫妻の人生は一変したことでしょう。この事例では、中盤、夫が立腹しなくなるのですが、立腹しなくなったのは、ソーシャルワーカーに期待することをあきらめたのではないか、関係がすれ違ったのは、援助の後半ではなく、前半なのではないか、と読み取れました。それをなんとかするために、期待を込めて夫から週1回の定期面談を提案してくださったように私には読み取れました。ソーシャルワーカーは、夫が何を期待しているのかがわからないという気持ちに陥っていました。でも、おそらく、夫自身はもっと、どうしたらいいかわからず気持ちが揺れ動いていたことでしょう。そんな時に、ソーシャルワーカーにしてほしいことは、クライエントに自分が何をするか、何ができるか、役割のオリエンテーションだ、と確信しています。オリエンテーションは言葉で行いますが、態度と行動がその言葉に伴わないと、クライエントは不信を抱きます(あたりまえ)。自分は、この病院で、あなたに、何を提供するか、それはあなたにとってこういうメリットがあります、というオリエンテーションを、どれだけ適切なタイミングで、繰り返し、相手に伝わるようにできるか、が重要だと思います。また、1回のオリエンテーションではクライエントは理解できないかと思います。たいてい、生まれて初めての人生を揺るがす経験中なのですから。だからこそ、繰り返し、繰り返し、そのクライエントにとってのソーシャルワーカーの役割、ソーシャルワーカーができること、ポジションを説明し、行動し、態度で示し続ける。1回で理解してもらえないことを嘆かず、地道な種まきをし続けたいものです。きっと、M.リッチモンドも、こんな気持ちを抱きながら、友愛訪問を続けていたのではないかな~。