取出涼子 医療ソーシャルワーカーdiary

取出涼子です。私が先輩や先達から、そして部下や後輩から教わってきたソーシャルワークに関することを発信します。

2020.11.15 問題の発見と「驚きまなこ」について

過去のブログで、私は自分を「月タイプ」または「猿(のものまね)」タイプ、とお伝えしましたが、ソーシャルワーカーの特異性のひとつに、生活課題を抱えている人を「発見」していく力が求められていることから、「月タイプ」はソーシャルワーカーらしく活動するという点では少々苦労していきた、と思います。

そんな「月」タイプが、発見の能力を高めるために役に立つだろうと思い、私が実践してきたことは、「驚きまなこ」をもつ、ということです。

「驚きまなこ」については、奥川幸子さんがよく話していました。

私は勉強不足で原著を読んでいませんが、荒又宏著「日本妖怪巡礼団」(集英社1989)にでてくる「都市ウォッチングの手法・4つの目玉」にでてくる<透視目玉><観察目玉><驚き目玉><分析目玉>の中の<驚き目玉>のことです。

詳しくは、原著を読むとよいと思いますが、奥川幸子著「未知との遭遇」三輪書店1997の付録P259-264に臨床例に引き寄せて書いてありますのでつまみ読みしていただくのもよいかと思います。

荒又宏さんはきっと変わり果てているであろうかつて妖怪が出没したはずの場所(!)を発見するために、この4つの目玉で東京の名所を巡った、ということです。そして奥川さんは、この4つの目玉こそ、私たち人を援助することを生業としているものに必要な目玉ではないか!と、妖怪巡礼とソーシャルワークがぴったり重なった!というのです。

荒又さんがおっしゃる4つの目玉は以下の通りです。

 1.過去へと向けた<透視目玉>

 2.調べる目、博物学する目<観察目玉>

 3.ひたすら驚き、感動すること<驚き目玉>

 4.放っておけば曇るに決まっている他の3つの目玉に、ときどき<カツ>を

   いれる役割を果たす<分析目玉>

この4つの目玉の中で、過去にさかのぼってその人と生活とその交互作用を紐解く目玉や、そのことについていろいろ調べたり観察する目玉、そして自分自身を内省、省察したり、研修を受けたりしてハッとしていくこと、には自分なりにできるなあ、とおもいましたが、私に圧倒的に欠けていたのは、ひたすら驚き、感動する<驚き眼>でした。

 

奥川さんのところでスーパービジョンを受ける準備でお茶を飲んでいたとき、

奥川さんが「このまえ、〇才で〇〇、という状態の方が救急車で運ばれてきたのよ。

びっくりして、そのような年齢で〇〇な方なんて、ほとんどいないし、私、救急病棟までわざわざ会いにいったのよ!」と興奮した声で話してくださいました。

 

詳細は忘れてしまったのですが、

その時、とにかく私がびっくりしたのは、多忙な奥川さんが、そのような情報を耳にして、すぐに現場に足を運ぶその好奇心と行動力です。

 ソーシャルワーカーは生活上の課題を抱えた方の課題解決の援助を行います。過去には、生活保護のような「申請主義」、つまり援助を申し出てきた方に援助をすることこそが重要、という論調もなくはありませんでしたが、現在の日本は違うアプローチを必要としています。

クライエントは相談を(表面的には)希望していないことも多く、しかし援助が必要であり、援助側から援助を申し出ること、特に地域へのアウトリーチの能力発揮が今日のソーシャルワーカーには期待されています。

 私は、若いころ、ロジャーズ派のカウンセリングを少し学んだこともあり、大きな病院の小さな部屋の中でクライエントとひとつの課題に対してじっくり相談するスタイルが一番自分に合っていると感じてきました。同時に、そのスタイルだけでは、ソーシャルワーカーとして限界があることも感じていました。そうはいっても、得意ではないことを頑張ること、はなかなか難しかったし、「太陽」型のソーシャルワーカーアウトリーチも社会活動も得意な方が多いように思えて、羨ましがってばかりいました。

 そんななか、

<驚きまなこ>という言葉と出会い、私もなにかあたらしいことに触れた時、<へえ~!>とまず驚いてみるのはどうか、そうしたら、現場に行ってみよう、という行動が伴うのではないか、と思うようになりました。

ソーシャルワーカーのところに寄せられる多くの依頼、まずAという依頼に取り組むとしたら、驚きまなこをを目に入れて、その現場に行ってみる、そして驚きまなこで眺めてみる、これは、アウトリーチにもつながるし、ナラティブアプローチの「Not Knowing(何も知らないところから始める)」にもつながるし、「非審判的な態度」にもつながるように思いました。リッチモンドが、友愛訪問で、まず相手の家庭を、友人のように友愛訪問したことにもつながるのではないか、とすら思いました。

そして、恩師の松本先生が、「施設に一歩入ったら、臭い!とおもうことは重要なことです。臭いと思ってはいけない、と自分の感じたことを押し込めるのではなく、臭い!と感じたところからソーシャルワークは始まります」と教えてくださっていたのですが、そのことともなんとなくつながってくるように思いました。

ソーシャルワーカーがどうクライエントとつながるか、どうクライエントを「発見」するか、それをどう仕組みにするのか、とても大切なことだと思います。

小さなことですが、リハビリをしている場面を見に行くようにして、そのときも驚きまなこを「かちゃっ」といれるようにするようになりましたし、なにかあったらとりあえず重いおしりを挙げて、まず「現場」に行ってみることを大切だと思うようになりました。さあ、そこからソーシャルワークが始まります。

引用 奥川幸子「未知との遭遇」三輪書店1997

   荒又宏「日本妖怪巡礼団」集英社1989