取出涼子 医療ソーシャルワーカーdiary

取出涼子です。私が先輩や先達から、そして部下や後輩から教わってきたソーシャルワークに関することを発信します。

2021.2.15 脱「根掘り葉掘り」:基本情報を引き出す「ストーリーで聴く」姿勢

基本情報は、基本のキなのに、実に難しい、ということの第2弾です。

コツは、「根掘り葉掘り聞かない」ことなのだろうと思いますがどうすれば「根掘り葉掘り」ではない聴き方ができるのか。

奥川幸子さんは、情報は、聞くのではなく、引き出すんだ、とよくおっしゃっていました。はじめはその意味があまりよくわかりませんでした。何回も奥川さんのレクチャーを聴き、私のたどり着いた結論は、「相手がその情報を私に話したくなるような面接をする」ということなんだな、という解釈です。これが「ストーリーで聴く」ことなのだろう、とも思っています。

私はカウンセリングのトレーニングに通ったことがあります。ロールプレイを中心としたロジャース派のカウンセリングトレーニングでした。そこでは、相手が話したことをそのまま受け取り、できるだけ相手の感情についての質問を投げかけて、その結果、相手の知(考え・話したこと)・情(それに対する感情)・意(意志)を理解する、ということを繰り返し繰り返し練習しました。私はある時ロールプレイでカウンセラー役として指示されたとおりにできるだけ相手の感情を確認するための質問を繰り返しました。普段の会話とは違い、カウンセラー役としてはぎこちない会話をしている感じでしたが、ロールプレイの相談者役の方が、「話しているうちに気持ちがよくなって、だんだん、もっともっと話したくなった」という感想を聞き、ロジャース派ってすごいな、と思ったものです。

そんな経験を含めて、ストーリーで聴く、ということを考えると、人生のストーリーは出来事の連続、その出来事についてのクライエントの考えや感情を聴きながら、出来事に沿って基本情報を、状況として聞いていく、ということができる、と思います。逆の聴き方は、情報を一つ一つ、箇条書きで項目で聞いていく方法です。

新人のうちは、なかなかストーリーで聴くことができず、その場合は、あえて、「皆さんに伺っていることですのでお伺いします」と仕切り直して、堂々と箇条書きで聴くことはありだ、と思っています。でもそれですとどうしても根掘り葉掘り感はぬぐえません。

こちらが聞きたいことを聞いているスタイルだからです。

 でも、ストーリーで聴くということは、まず、相手の体験を話し始めてもらい、その状況が相手にとってどうだったのか、相手の側から見たストーリーを映像的に理解するために、質問を重ねます。具体的には、事実、それに対するクライエントの考え(知)、感情(情)、その事実に対してクライエントの意思(意)を知ること、または、クライエントの考え(知)、感情(情)、その事実に対してクライエントの意思(意)を形作ったエピソードは何だったのか、その関係を知ること、などでしょうか。

 私は病院のソーシャルワーカー歴が長いので、特に急性期病院にいたころには、主訴を確認したあと、病歴を丁寧に聴くようにしていました。病歴はまさにクライエントのストーリーでした。クライエントのほとんどが病気になったことが影響してソーシャルワーカーと会うことになっていましたので大変自然な話題でしたし、いろいろな感情を理解することにもつながりました。転院先の紹介目的の相談でも、医療費の支払いの相談でも、情報だけが欲しいクライエントでない限りはできるだけ病気の経過を教えてください、と伝えて聴きました。そのストーリーの中で、同居の家族を聴く、家族の年齢を聴く、何か大きなイベントがあったり、家族の関係が見えてくるエピソードがあったら、それを補強する質問をする・・・基本情報の枠組みが体に入っていれば、基本情報の質問をはさむことでストーリーは補足されていきました。オープンクエスチョンをすることで、クライエントが話したいように家族のこと、経済的事情、仕事のこと、などを話せる場合もあり、私は、情報を聞いているというよりも、その人のこの病気になってからの歩んできた道のりをなるほど、そういうことだったのか、と理解できたと思うことが多くありました。

 そしてもう一つ、とてもとても大事なことでときどきソーシャルワーカーが忘れてしまうこと。情報収集は、ソーシャルワーカーのためにしているのではなく、クライエントのためにしている、ということ。情報は、ソーシャルワークアセスメントのためにソーシャルワーカーももちろん必要としているのですが、同時に、渦中にいるクライエントが自分がどういう状況に置かれていて、自分は何に困っていて、どうしていきたいと思っているのか、を自ら理解する時間でもあるのです。ソーシャルワーカーが自分のために情報を聴くことだけに集中しては、このプロセスはなかなかともに歩めません。クライエントも自分の状況を見つめなおし、はっとし、そうか、自分はこういう風にしていきたいんだ、と解決方法が頭に浮かぶ、そんなクライエントが主語の面接が、ソーシャルワーカーが話を引き出す面接なのではないか、と思うのです。