取出涼子 医療ソーシャルワーカーdiary

取出涼子です。私が先輩や先達から、そして部下や後輩から教わってきたソーシャルワークに関することを発信します。

「ポジショニング②」;仕事を創るということ 

透析施設では、1階の事務室にソーシャルワーカーは事務の方、管理栄養士さんと机を並べていました。先輩のソーシャルワーカーがいて、社会人としてもソーシャルワーカーとしていましたが、朝はおはようございます、帰りはお疲れ様です、というところから、仕事のイロハをたくさん教えていただいた記憶があります。先輩のソーシャルワーカーは、夫婦間の問題、仕事に苦慮している状況、食事や水分制限を取り入れた療養生活についての相談、経済的に困窮されている方の相談など、さまざまな患者さまの生活上の相談事を受けていました。ところが、すぐに産休に入ってしまわれることになりました。
一緒に外出した帰りの喫茶店でそのことを告白され、まだ右も左もわからない私は寂しさと不安を強く感じて泣いてしまったことを今でも覚えています。
先輩がいると思って就職したら退職してしまい、自分がリーダーになってしまった・・・こんな経験をしているソーシャルワーカーさん、いらっしゃるのではないでしょうか?
そんな私に、「ソーシャルワーカーはその医療機関の状況に合わせて仕事を創る必要があるから大変なのよ」と私に教えてくださったのは、奥川幸子さんです。
私は、人生で3か所の医療機関に勤めたわけですが、その環境に合わせた仕事の創り方とはまさに「ポジショニング」であり、対象となるクライエントの病気の時期や疾病の状況に合わせて、その方たちが持つ福祉的ニーズの相談がうまくソーシャルワーカーのもとに集まるように仕組みを作ること、なのだと思っています。
透析施設には、大学病院などで透析を導入された方が外来透析目的で紹介されてきます。当時の未熟な私でも、ソーシャルワーカーとして医療費や障害年金などの活用できる制度を確認したりはしていました。しかし、それ以外のさまざまな相談は待っていてもあまり来るものではありませんでした。患者さまたちは、時間になると来院し、数時間の透析をリクライニングチェアの上で受け、淡々と帰っていきました。その背後にさまざまな苦労があったとしても。
当時の私の給与は決して高いものではありませんでしたが、それでも、その給与分を働けていない、という自責の念がいつも自分を襲って、情けない気持ちでいました。
今から振り返ると、私は、若く経験も非常に不足していましたし、透析患者の相談のニーズをまったくわからない状態で、相談を受けても対応できるわけではなかったわけですが、それ以上に、相談をうける体制のつくりかたがわかっていなかったこと、が大きかったと思います。
私は透析施設を1年半で去り、大学病院に転職をし、16年ほど勤めることになったのですが、透析施設と比較して感じたことは、なんてたくさんのクライエントが相談室の扉をたたくのか!ということです。ある意味、役に立てているようで幸せでした。
  この違いを生んでいるものはなにか。もちろん病院の機能、すなわち病気の時期、病気の種類、治療方法などいろいろな違いがあります。でも、私は、ソーシャルワーカーの仕事を患者に伝え、ニーズを拾い上げ、ソーシャルワーカー室に紹介してくれているのが、大学病院ではドクターや看護師、地域の関係機関であること、紹介を多職種・他機関に託す仕組み(=私は「依頼制」と呼んでいます)を大学病院では作り上げている、ということに気が付きました。1000床の病床、3000人/日の外来患者に当時3人のソーシャルワーカーしかいなかった大学病院にとてもフィットした仕組みでした。ある病棟で話題になっている患者、または、地域の関係機関から「この患者様のことで相談があるのですが・・・」と連絡をもらうと、すでにソーシャルワーカーに依頼が来ていることをソーシャルワーカー仲間では実感していました。つまり、依頼制の仕組みが有効に機能していたということだと思います。
 私は2回目の転職をし、回復期リハビリテーション病棟に勤めました。「相談室」はなく、病棟にソーシャルワーカーを配属し、全患者担当制を導入するよう理事長から指令を受けた私は、全員担当をするために入院時に面接をするわけですが、その時にソーシャルワーカーの役割を理解していただくことが意外に難しいことを強く実感することになりました。大学病院ではほとんど苦労しなかった「ソーシャルワーカーとは何をする人か」の説明が非常に重要でした。ポジショニングができた、つまり、自分が思い描く援助関係が構築でき、ソーシャルワーカー自らがソーシャルワークニーズを発見し、クライエントと合意し、援助目標を立てる、ということがフィットしていると思えるまでは非常に苦しかったです。なぜならやはり役に立てていなかったから、です。
 その後、リハビリテーション外来の担当ソーシャルワーカーになってみると、500名近くいる外来患者全員を担当することは不可能なため、あらためて依頼制を創り上げる必要が出てきました。外来ソーシャルワーカーは面接室も持っていませんしいる場所も決まったところがありません。患者さんたちは介護タクシーでリハビリを受けに来て、リハビリを行い、介護タクシーが迎えに来て急いで帰っていきます。ただ待っていても相談が来るわけではない状況は、透析施設での経験に似ていました。どの患者さま・ご家族がソーシャルワーカーを必要としているのか?患者さまと一番よく接している多職種からソーシャルワーカーへどのようにすれば依頼をもらえるか?患者さま・ご家族が直接相談に来れる体制を創るにはどうしたらいいか?私は、新患さん、就労希望の方、全失語の方、リハビリの目標を納得できない方、など、自分なりにターゲットを決め、挨拶をしにいくところから始めました。その成果が出て、依頼が少なかった当時に比べ、現在の外来担当ソーシャルワーカーは満員御礼の忙しさです。
 いまから透析施設にもう一度勤めるとしたら、私は、やはり自分自身でソーシャルワーカーに対するニーズを発掘する方法(「全員インテーク制」)を採用し、透析患者様と家族のニーズは何か?を学び直し、このニーズに対応しよう、と決めたら、そのニーズを持つ人の情報がソーシャルワーカーのところに届く「依頼制」の仕組みを考えていく方法をとることと思います。そして、相談が当面少ないことにあまり焦りを感じないように自分に言い聞かせると思います。「種まき」の時期が重要だと思うからです。
「種まき」については、また後日、語りたいと思います。
長文になりましたが、今回お伝えしたかったことは、医療機関ソーシャルワーカーにとって、どのようにクライエントと出会う仕組みをつくることはとても重要な業務であり、その組み立て方は普遍的なソーシャルワーク技術だと思っている、ということです。「人」と「環境」とその「交互作用」を見て、対処方法を考えること、でしょうか。